ミス・ケントンは、花を生けた大きな花瓶を抱え、にっこり笑ってこう言いました。
「ミスター・スティーブンス、これでお部屋が少しは明るくなりますわ」
カズオ・イシグロの小説「日の名残り」(中央公論)の中、
私の好きな場面の一つです。
女中頭のミス・ケントンが、執事のミスター・スティーブンスが働く食器室があまりに殺風景なことを気遣い、花を持ってきたのです。
全編ミスター・スティーブンスの回想というかたちで語られるのですが、彼にとって、20数年経っても、花を抱えた若きミス・ケントンの姿が印象深く心に残っていたのでしょうか。
結局ミスター・スティーブンスは、仕事場においては「気を散らすもの」として、その花を断ってしまうのですが、、、、。
気を散らすのは花?それとも。。。。
英国における「品格とは」について、
伝統あるお屋敷に仕える執事と女中頭の切ない関係も含みながら、静かに語られる小説です。
映画化されたものは、多少時代設定やテーマが違っているように思えましたが、どちらもとても素敵な作品です。
我が家の軒下で、ほとんど手をかけられていないにもかかわらず、たくさんの花を咲かせてくれた紫陽花。
今日はビクトリアンのミルク・ジャグに。
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